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「読書ログ」

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題名:言語学者が語る漢字文明論
著者:田中克彦講談社学術文庫、1050円税別)
発行:2017年8月9日第1刷
感想:この本の主張は、話半分に受け取っても、概ね妥当だと思います.

 

文章を一部引用します.
(p25)・・・日本人は、時代が危機に立っていると感じると、やたらに漢字をふやしたり、敬語などのことば使いをきびしく見張って、ことばのむつかしさで武装する.そうすれば気分が引きしまってしゃんとすると思っているところがあるらしい.漢字語は日本では軍人や役人たちが人民の目をくらまして戦争にさそい込んだり、事実をごまかそうとする時に大いに愛用されるのみならず、また学者や知識人までもが、自分の学問の弱さをかくすためにそれに手を出してしまう要注意の文字だ.

(p99)・・・日本語はたぶん、英語を学ぶよりも10倍、いやそれ以上に手間がかかるだろうし、そのわりには「わび」だの「さび」だの、最近にはまた、にわかにはわかりにくい「品格」だの、御隠居さんのひまつぶしには役に立つかもしれない、独特の趣味や作法を含んだ言語である.とにかく投じた金と努力に見あうだけの利益がない、要するに効率が悪いのである.

(p133)・・・日本語だけに漢字が残って、それのみならず人はさまざまな読み方を漢字につけて、これはどうお読みしたらいいんでしょうかと、ばかばかしくもむだな時間を過ごしながら、日本語って味わいのあるいい言葉ですねなどとなぐさめあうだろう.

(p172)・・・漢字をたくさんおぼえることが出世と地位の獲得にまっすぐつながるという、何百年も続いたこの伝統が、学問を常に保守と反革命、反人民的特権思想の巣クツにしてしまったのである.

(p292)・・・漢字をたくさん使って書かれた文章は、そうでないものよりもりっぱで価値が高いという考えを捨てよう!漢字の多さはむしろ書き手のことばの力のまずしさを示しているのだと思おう!
引用を終わります.

 

何が言いたいのか判らなくなるほどのバイアスの掛かった思い出話が多いうえに、あくの強い文体で書かれていて、分かりにくいと云えば分かりにくいけれども、そこが面白いところでもある.この人が国語学会とか国文学者とかに恨みつらみを持っているからなのか、どうか知りませんが、怒っていることは伝わってきます.論文と云うよりは、随筆に近いです.

ひとつだけ個人的な意見を言わせてもらうと、上代特殊仮名遣いについて、僕は異論を持っています.

(注)この本は、2011年に刊行されたものを文庫化したものです.